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従来から受け継がれた方式から、近年のメカトロニクスまで、モジュール化を含んだ最新の機械設計の勘どころをご紹介します。

   

機械の要 ねじボルト締結 | 忘れがちな強度計算

ねじボルト

 ボルト、ねじが受ける応力

ボルトやねじによって部品を締結するときの締結力は「締め付けトルクの入力により発生する軸力」
より決まると基本編で説明をしました。今回の「強度設計編」ではボルトやねじに作用する様々な応力
について解説し、適切な選定をするための勘所を紹介します。

様々な応力

ボルトやねじで部品を締結したときに作用する応力は以下の様なものがあります。

①軸方向の引張応力・・・・・締結した部品を引きはがす方向に作用する荷重により発生する応力
②ねじ山のせん断応力・・・・軸方向に荷重が作用したときにおねじとめねじの接触部分に発生する応力
③せん断応力・・・・・・・・軸方向に対して垂直に荷重が作用したときに発生する応力
④ねじり荷重・・・・・・・・締め付けトルクが作用したときに発生する応力

ボルトやねじの材料

ボルトやねじを構成する代表的な材料は下表の様なものがあります。

代表的な材料

強度計算を行う際は、それぞれの材質において許容応力以下の応力発生になるように、ボルトやねじの
サイズを選定する。

 

ボルトやねじの強度計算

「様々な応力」の項で列記したように、ボルトねじにて部品を締結させようとしたときには応力が必ず
発生する。特にねじが壊れる原因には3種類の応力があり、それ以外にも複雑な荷重が作用するので一
義的に定まらず極めて難しい。通常は3つの応力(軸方向の応力、ねじ山部に発生するせん断応力、軸に
対して垂直に発生するせん断応力)について簡易的に取扱い、概念的な強度計算を行う。その為、そこ
から導きだされた応力には十分な安全率を考慮することが肝心である。

実際の計算例(軸方向の引張り応力)

図1の様に2つの部品を、「呼び径M10」のボルトにより締結した時のボルトに発生する引張り応力を算出し
「呼び径M10」のボルトで使用に耐えうるか確認する。締結力は部品2に荷重(Fo)=2000Nを矢印A の方向
に付加しても部品2と部品1の締結状態にズレや脱落等がないこと。ボルトの材質はSS材とし、 安全率(S)
1.5とする。締め付けトルクは下表による。

締結力 計算

締め付けトルク表

呼び径M10の弊社における標準締付けトルクは左表にとおりである。
これに従い、規定の締付けトルクでボルトを締付けるとボルトの軸力は,「ボルト、ねじ基本編」で 記述した公式を用いて求めることができる。

軸力(F)=T(N・m)/ k・d(m)
=24.5 / 0.15・0.01
=12250(N)

軸力(Ft)がボルトに作用すると、ボルトには引張り応力(δ)が発生する。
この引張り応力(δ)は以下の公式で求めることができ
材料毎に決められている応力の値以下になるようにする。

引張り応力(δ)= Ft /As
F:軸力
As  :ねじの有効断面積
※有効断面積に関しては下記の公式により算出することができるが、すでにJISにより規定されているので
その値を採用すればよい。 JISの規定を以下の表に示す。

JISの規定

表中より呼び径M10の有効断面積(As)は58㎟であるから、
引張り応力(δ)=Ft/As
=12,250/58
=211.2(N/㎟)
この値に安全率(S)=1.5を考慮すると、
δ=1.5×211.2
=316.8(N/㎟)
となるが、SS材の引張り強さは、400(N㎟)なので締付けトルクに対して1.5倍以上の強さを持っていますので
問題ないことがわかる。

実際の計算例(ねじ山に作用するせん断応力)

図1の様な締結においては、軸方向の引張り応力以外にねじ山部におけるせん断応力も同時に発生することも考慮
しなくてはなりません。 せん断力応力を求めるにはまず、「おねじ」と「めねじ」のそれぞれで荷重を受ける面積を
求める必要があります。

おねじの面積(Sb)=πd1×P×z
1:めねじの谷の径(mm)
P:ねじのピッチ(mm)
Z:かみ合うねじ山の数 (Z=L/P)

Sb=3.14×10×1.5×(10/1.5)
=313.999
=314(㎟)

おねじのねじ山部にかかるせん断力(τ)は次式から求めることができます。

τ=F/S=F/πd1×P×z=F/πd1×L
=12250/314
=39.01(N/㎟)

SS材の許容せん断応力は「78N/㎟」なので十分な耐力があることがわかる。

実際の計算例(ねじの首元に作用するせん断応力)

図1の様に、荷重Aが作用するとねじの首元にせん断応力が発生する。
この時も、ねじ山のせん断応力の計算と同様に求めることが出来る。
この場合、ねじの有効断面積は応力が大きくなる方向、つまり、断面積が少なくなる方向に考える。これは設計上で
安全側に働く様に考慮するという考え方に基づくものである。

∴ τ=F/As=F/πr2
=2000/3.14×52
=25.47(N/㎟)
SS材の許容せん断応力は「78N/㎟」なので十分な耐力があることがわかる。

実際の締結力について

前項まではボルト事態の強度に関して強度計算等を行ってきたが、本来の「部品同士の締結」についてはどうか確認を
してみる。 図1では「呼び径M10」のボルト1本にて部品を締結している。所定の締付けトルクで締付けたときの軸力は
12250(N)である。 つまり、この軸力が締結される2つの部品の接触面に作用すると考えることができる。図1の部品
それぞれの材質がSS材とするならば、軸方向に垂直な方向への締結力は、以下の様に求められる。

F=Ft×μ

Ft=軸力
μ=摩擦係数(0.1)

F=12250×0.1
=1225(N)

つまり、M10のボルト1本での部品の固定力(締結力)は1225Nである。
図1の様に、荷重Aが作用してしまうと、この固定力では賄いきれす、荷重Aの方向にズレてしまう。こう言った場合は
本数を増やすなどの設計上の配慮が必要となる。多数本化すれば小径のボルトの使用が可能になる。

まとめ

装置や機械の設計においては、その機構や構造などばかりに目が行きがちですが、部品と部品を締結するのはやはりねじやボルトです、装置や機械を固定するのもやはりねじやボルトですからその重要性は計り知れません。適切な選択がなされていないと、重大な事故につながりますから、十分な検討と配慮が必要です。

 

 

 

 - 機械要素, 設計全般